‡‡‡ Only one ‡‡‡
野宿が3日続いてやっと一つの町に辿り着いた。
そんなに大きくない所だったけど(どちらかと言うと小さい部類)それなりに賑わっていた。
ただでさえ目立つ4人なので更に目立つジープは姿を戻して、八戒さんの肩に乗っている。
町の入口から数メートル歩いたあたりから周りがざわつき始めた。
(あ〜まただよぉ)
『最高僧の三蔵法師様がお供連れて旅をしている』
そんな噂が流れているらしくて、最近町だとか村だとかに着くと、三蔵はあっと言う間に周りを囲まれて、連れ去られそうになる。
まぁ、でも。
そう簡単に連れ去られるような最高僧じゃないもんね。
今回も三蔵の周りに人が集まって、説法をしてくれってねだるんだろうなぁ…って歩きながら思っていたら何かがいつもと違っていて…。
「………あ、れぇ?」
「ん?どした?」
私が首を傾げて呟くと、隣で私の肩を抱くようにしてあるく悟浄が顔をのぞき込むようにして聞いてきた。
「ん〜。なんか…皆、三蔵見てから、悟浄見てない??」
「あ?…あぁ…気の所為じゃねぇの?」
そう言いながら、悟浄が顔をあげた上に私から視線を逸らした。
抱いている肩も、さっきよりは弱くなっているし。
「…ごじょぉ〜?この町の女、既に食っちゃってるのっ?!」
「チャ〜ン?」
悟浄が呆れた顔して私を見ている。
「な、何よっ!だって悟浄カッコイイんだもんっ!いつもいつも町とか行くと女の人が寄ってくるしっ!」
「寄ってくるだけだろ?」
「ほんとに?よく食べちゃってたって八戒さんから聞いてるけどぉ…」
「…八戒てめぇ…」
悟浄がいつもより声を低くして言うけど、八戒さんは笑ってるだけで流している。
「ったくよぉ…。今は以外興味ねぇから食ってねぇよ」
「あったり前でしょっ!今でも食べちゃってるようなら容赦なく射抜くからっ!!」
自分の武器の弓を引く動作を小さくしながら悟浄に言った。
「こわっ!」
大げさにそんな事いうから、背伸びしてゲンコをくれてやった。
「じゃれてねぇで、さっさと歩け。この莫迦ども」
「じゃれてないよっ!」
「じゃれているようにしか見えないですけどねぇ」
むぅ…。
「何故、禁忌の子が…三蔵法師様と………」
突然私の耳が拾った言葉に思わず足が止まった。
声が聞こえた方を見るけど、よくよく周りの言葉を聞くと、同じような事をあちこちで言っているのが分かる。
誰の事を言っているのか、それくらい私でも分かる。
三蔵の件もそうだけど、『禁忌の子』発言もたまに聞くことがあるから。
当の本人が気にしないから、私達も気にしない…なんて私に出来ると思うっ?!
だって、悟浄は私の大切な人だもんっ。
そんな事言われたらっ…、
「それがなんっっ!?」
「は〜い、そこまで」
「んんんんっーーーーっ!」
嫌みなこと言う奴らに反撃しようと口を開いて少し言葉を発したら、悟浄の大きな手が、私の口を塞いだ。
なんとかして、手を剥がそうともがくんだけど、口を塞いでいるのをいいことに、私の背後から抱きしめていて、なかなか離してくれないっっ!
尚ももがき続ける私の耳元で、
「それ以上言うと、余計喚いてくるから、やめろよ?」
と悟浄が呟くように囁いた。
悟浄の声で囁かれてしまうと、不思議と力が抜けていってしまって、もがくのをやめた。
ゆっくり、振り向いて目で不満を訴えてみるけど、こういう時に限って、悟浄は読めない笑顔をくれる。
しょうがないから、一つ頷くと、やっと悟浄の手が私の口から離れていった。
「………ごじょ……」
再び私の隣に来て、私の肩を抱いて歩く悟浄を見上げると、
「が気にする事じゃねぇってv」
と言って、私の頭を少し乱暴に撫でた。
気にするよぉ…。
彼氏の事気にするの普通でしょ?
……悟浄は…私と逆の立場でも気にしないの?
『気にする事じゃねぇ』だなんて…ちょっと悲しくなっちゃうよ…。
そんなブルーな感情を持ったまま、泊まる宿について、いつものように八戒さんが手続きをして、部屋の鍵を渡してくれた。
部屋割りは3人部屋と2人部屋。
2人部屋には私と悟浄で、3人部屋には三蔵と悟空と八戒さん。
悟浄と一緒に部屋に入って荷物をちょっと整頓しながら、チラリと悟浄を見ると、ベッドに座って手を後ろについて、天井を見上げるようにしながら煙草を吸っていた。
その表情がやっぱりいつもと違うのが分かったから、側にいたかったんだけど、八戒さんに言われて、買出しへと出かける事にした。
2時間後、私は傷だらけで宿へ戻ってきた。
「どうしたんだよ、っ!」
買出しの袋を抱えたまま、食堂兼ロビーに行くと、私を見て悟空が肉まんを片手に駆け寄ってきた。
どこでその肉まん………。
まぁ、いいんだけどね。
「ん〜〜と、ちょっとね、運動してきましたv」
「あれを運動というんですか、は…」
悟空に答えたら、同じように買出しの袋を抱えた八戒さんが、呆れながら言った。
「ごめんなさい…。で、でもさっ!」
「何やってんだっ?!っ!」
「ふぇ?」
さっきまでいなかった悟浄が突然真横にいて変な声を出してしまった。
「傷だらけじゃねぇかよ…」
「あ〜…転んじゃってねv」
「……………しょうがねぇなぁ」
「え?…ご、ごじょっ?!」
突然悟浄が私を横抱きに抱き上げて部屋の方へと歩き出した。
落としそうになった買出しの袋を持ち直しつつ、見上げると…悟浄…怒ってる?
なんか…表情が怖い…かも。
私達が泊まる部屋のドアを少し乱暴に蹴って開け、ベッドまで行くと、私をそっと下ろしてくれた。
「ご、悟浄…」
「少し待ってな」
私の頭を優しく撫でて悟浄が一旦部屋を出てしばらくしたら、救急箱と濡れたタオルを持って戻ってきた。
「ったく…女の子が生傷作るなっての」
優しく、傷についている汚れを悟浄がタオルで拭ってくれる。
「ごめん…で、でもねっ!…ぃっ…」
拭ってるタオルが頬に触れた瞬間ズキッっと痛みが走って、思わず顔を歪めてしまった。
「……………殴られたのか?」
指で私の頬をそっと触れながら悟浄が聞いてきた。
「殴られたっていうか…ビンタ食らったっていうか…」
悟浄の真剣な声に思わず本当の事を言った後、しまったっと思ったんだけど、もう遅くって。
「誰?」
短く戻ってくる言葉に悟浄の怒りが見える。
けどさ、誰と言われても、知るわけがないんだよね。
だって、見知らぬ男性と喧嘩してたんだもん。
「」
答えを促すように悟浄が私の名前を呼ぶ。
「知らない人」
「なんで知らないヤツにこんな目に遭わされてんだよ」
何でってねぇ………。
「だって…悟浄の事…『禁忌の子』だって言うから…」
「ほんとの事じゃねぇ?」
「違うっ!!悟浄は『禁忌の子』じゃないもんっ!!」
「…?」
思わず悟浄の服の袖を掴んで言ってしまった。
だって…悟浄自身が肯定するからっ。
「違うよっ!悟浄は悟浄で、禁忌の子なんかじゃないもんっ!!」
「あのなぁ…俺は俺だけど、この髪と瞳の色は――」
「…血の色だって言うの?紅いから…だから血の色?禁忌の証?…なにそれっ!わかんないよっ!!」
悟浄の袖を掴んだまま見上げれば、悟浄の紅い髪と瞳。
「悟浄が何したっていうの?何もしてないじゃないっ!何もしてないのに、なんで『禁忌』だなんて言われなきゃならないのっ?!」
今まで思っていた事が、堰を切って溢れて、言葉にしてしまう。
「紅い色だって、血の色じゃないっ。悟浄の紅だよっ、悟浄『だけ』の色だよっ!!」
禁忌の色だから、悟浄だけの色なワケじゃないって伝えたいのに、上手く言葉にできない。
「私、悟浄の色好きだよ。凄く綺麗で…宝石とかに負けない色だって思ってるもんっ!!」
どうすれば伝わるの?
「好きなのっ。悟浄の全部好きなのっ!その紅もっ。全部、全部っ、全部っっ。好きなのよっ!!!」
伝えられない。
好きなのに。
その紅い色も。
禁忌の色じゃなくて、『悟浄の色』が好きなの…。
言いたいのに…伝えられない…。
「わ、わかってよぉ………」
俯いて、震える手をギュッと握っていると、悟浄が両手で、私の頬を包んで上に向かせた。
「わかった。すっげぇよく分かったぜ?」
「…ご、じょ…?」
「『俺の色』が好きなんだろ?」
「…うん…」
1回瞼を閉じて頷くと、涙が一滴頬を伝った。
「誰もが持ってる『血』の色じゃなくて、『俺』だけの色なんだろ?」
「…うんっ」
伝わっている?
「他にも居るかも知れない『禁忌』の色じゃなくって、『俺』一人の色」
「うんっ!」
伝わってるっ!
「で、はその色が好きなんだよな?」
「うんっ、大好きっ!」
「そうか」
零れ始めていた涙をグイッっと拭って、ニッコリ笑って答えたら、悟浄が強く抱きしめてくれて、
「………サンキュな、…」
と、囁いてくれた。
少し腕を緩めて悟浄が私を見つめる。
綺麗な…ルビーよりも綺麗な瞳が私を見ている。
自然と私は目を閉じて、少しの間の後、唇に吐息と一緒に暖かい感触が落ちてきた。
貴方がその色を嫌っていたのは知っていたの。
そうさせたのは誰なのかも、なんとなく知っている。
だから私は、貴方にその色を少しでも好きになって欲しかった。
だって、私が好きな色だから。
好きな貴方にも好きでいて欲しいから。
だから。
だから…好きになってね、自分の色。
END
リク内容…桃源郷で、禁忌の子もしくは女癖の悪さで喧嘩…。
あぅっ。桃源郷なんですけどね、一応っ(汗)
えっと…、ヒロインは強気な女の子〜♪
過激な女の子になってしまってるっっ(涙)
も、もうしわけありませんっ、緋桃さまっ!
こんなんで良かったんでしょうかっ?!
と、とにかく…緋桃さまに限り、お持ち帰り可能です。